==ジュダーは変われるか?==
アルツロ・ガッティVSカルロス・バルミデールのWBCウェルター級タイトルマッチは王者バルミデールが挑戦者で3階級制覇を目指す,ガッティを9R、TKOによる勝利で退けた。
私はプレスカンファレンスに行くか、行かぬか、リングサイドで迷っていると、目の前にテレビのインタビューに答えるザブ・ジュダーの姿がそこにはあった。
ジュダーはベージュのスーツを着て、そのインタビューに答えていた。照明に照らされ、前歯に入れた銀歯、耳のピアス、そしてスキンヘッドの頭が恐ろしく輝いている。
私は話し終えたジュダーに聞いた、
「バルドミールとリマッチをしたい?」
「イェス!是非、やりたいよ!」
と、妙に礼儀正しく返事をされてしまった。他にも沢山と聞きたいことはあったのだが、周りには当然のごとく話しかけたい、サインや写真を撮りたい、と思うファン達が群がっており、私は途中で押し出されてしまった。
この日、かけられたバルミデールの持つWBCのベルトは今年の1月7日、そのジュダーから、それこそ、この日を超えた圧倒的不利の予想を覆しての判定勝利により、バルドミールが手にしたものだった。
私はその時の、ジュダーが普段、使うグリーソンズジムで、彼のバルミデール戦に向けたトレーニングを直前まで見ることができる機会に恵まれた。しかしそれは驚きとそれを上回る失望の日々だった。
ジュダーは通常、試合が近くなるとどこかでキャンプを張り、その後は試合のある州で当日まで調整をしている。しかしこの時の試合はNY、MSGでの試合だったということもあり、ジュダーは直前までこのジムでトレーニングをしていた。
彼の陣営はグリーソンズに他のジムからやって来た選手とスパーをしたり、サンドバッグを打ったり、ミットをしたりと、その姿は追い込んでいくというより、むしろ終止リラックスに努めているようであった。それを見て私は思ったものだ、
(これが世界戦1ヶ月前の練習なのだろうか?)と。
そして試合2週間前に入る頃、減量のキツさがピークに来る頃だ、しかし下の階級から上がってきたジュダーにとっては減量はそれほどする必要はないのだろう、彼はほとんどのトレーニングの時間、Tシャツ1枚で行っていた。
そんなジュダーのこの時期のスパーリングを見て、驚かされてしまった。
相手はアマチュアの選手、数人だった。少し早いが既に調整に入ったのだな、私は思った。しかし彼は調整などをしていた訳でも、追い込んでいた訳でもなかった、ジュダーは”遊んだ”のだ。
手をわざと後ろに組み、頭で経験の乏しいアマの選手を押し付けるようにして攻めたり、また違う選手にはキャンバスに両グローブをつけ、そこから”蛙飛びアッパー”を出したり、またはリングアウトさせたり、スパーの最中、周りと談笑し始めたりと、、、、こんなトレーニングがバルドミール戦前に行われていたのだった。
そして彼はそんなトレーニング後の試合でバルミデールに負けた。その敗北後にもかかわらず、半ば強引に進められたメイウェザーとのビッグマッチにも完敗を喫した。コンスタンチン・ジュー戦に続く、大乱闘を演じる失態というおまけつきで。
そのようにしてジュダーは2連敗し、ベルトの全てを失った。
メイウェザー戦後、ジュダーはグリーソンズジムには姿を現してはいないようだった。今までは試合後、ジムに姿を見せていたのだが、やはり結果と、何よりその内容が彼の足を遠のかせてしまっていたのだろうか?あるいはただ単に私がいる時間に彼がいないだけなのだろうか?
その後、ジュダーの姿を初めて見たのは6月の始め頃だった。共に大乱闘を演じた父の姿もあった。ジムの皆と話す彼等の姿はそれほど落ち込んでいるようではなかった。
その数日後だったか、ジムの窓から何気なく外を覗いた時、ジュダーの姿がそこにはあった。そして彼の隣にはおそらく1000万は軽く超えるであろう、イエローの高級スポーツカーが道に横付けされていた。
(メイウェザーとの試合で負けたのに、そのファイトマネーで買ったのか、、、、)
私がとやかく言うことではないのだが、が、しかし、、、
その後のジュダーの練習を見てみても、スパーリング相手が激しく攻めすぎることに怒り、さんざんその相手を待たせたにもかかわらず、2Rでスパーを切り上げ、帰っていってしまった。
7月下旬にジュダーはMSGで行われたバスケットボールのパーティー・ゲーム後、金銭面のトラブルで逮捕され、一晩を警察管区で過ごしたらしい。
彼は何も過去から学んでもいなければ、反省をしているようにも見えなかった、、、ジュダーは何一つ変わったいるようには見えなかった。
話しかければ軽く応じてくれるし、決してイヤな男という訳ではないのだ、しかし彼は変わらなければならないのではないのだろうか、そして本来、彼がこの日、このリングに立っていなければ行けなかったのではないか、試合を支配する才能と可能性が未だ彼にはあると思えるからだ。
しかしそんな日はもう来やしないのかもしれない、、、
私はあの日の短いインタビューの時、バルドミールとの前回の対戦のときはあまり練習に身を入れてなかったようだけど?と聞くと、彼は急に何だ、知ってるのか、といった感じで態度を変え、言った。
「イヤ、俺はいつもハードだぜ!まぁ、、今度はもっとハードにトレーニングをするよ!」
「、、、、、」
今のジュダーに、できるだろうか?この日のガッティのように語り、バルドミールのように何かを証明することが、できるのだろうか?そう、リングの上で、、、
———終わり
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