6月16日にコネチカットで行われた、IBFJrウェルター級タイトルマッチで試合終了を告げるゴングが鳴ると、挑戦者のポール・マリナジはリングに膝を折り、うつ伏せになっった。その彼めがけセコンドやプロモーターのルー・ディベラが次々に多いかぶさった。マリナジがダウンをしたわけではない、ダメージが深刻だったわけでもない、ただそれは自分のすべきこと、できることをやりきった男が見せた歓喜の瞬間だったのだ。
ポール・マリナジはブルックリンで生まれ育ったイタリアン・アメリカンでボクシングを始めたのは17歳のときだった。その後4年でアメリカのアマチュア・ナショナル・チャンピオンとなり、2001年にプロへと転向、そしてNYやコネチカットなどアメリカの東海岸を中心にキャリアを積んできた。
アウトボクサーである彼の武器はどの距離からも出せ、ハンドスピードもある高速ジャブと目の良さと感の良さで相手をかわし続けるディフェンス力、それらを支えるボクシングスキル、そしてなにより彼の発言がみせる独自のキャラクターであったかもしれない。
「自分の階級の中で俺は世界でも10人の中の一人には入っているはずだ。そしていずれタイトルを獲得すれば少なくともトップ5には入るだろう。」
「この競技者の中でも俺のジャブはベストだと思っている。」
その捲し立てるように答える彼のインタビューはメディアにも人気があり、あるアメリカのコラムニストは彼のことを「”キャラクターでなら”ここ数年でもトップクラスのファイターだろう。」と皮肉とも思えなくもないことも書いているほどだ。
そう、それはこれらの発言がまだ世界タイトルに挑戦さえしたことのないある一人のボクサーから出たものならば、当然、彼は自信過剰でいわゆるトラッシュト—ク先行のボクサーにすぎないと評価されても仕方がなかったのかもしれない。
マリナジには確かな一定水準以上のスキルが備わっていたが、その一方でポイントは奪えても相手にダメージを与えることができぬパンチ力の不足、ディフェンスに偏りがちなファイトスタイルやタフな相手との試合経験不足など、そしてトラッシュトークなども相まみれ起きる様々な疑問を周りは彼にいつも抱えていた。彼を知る者達は常に心の中で唱えていたのだ、
彼に口で言う程のハートの強さがあるのだろうか?
マリナジはこのスタイルで本当に世界を穫ることがで来るのか?
と。
まず一度、その答えが出たのは去年の6月だった。
場所はNY、マディソン・スクウェア・ガーデン。地元でマリナジは当時WBO世界Jrウェルター級王者だった無敗のミゲール・コットに挑戦した。
試合はマリナジが2回にダウンをしながらも、得意のジャブで中盤を盛り返したのだが、その後コットの激しいプレッシングの前になす術が次第に無くなりまぶたを裂かれ、頬を砕かれワンサイドの判定で初黒星を喫した。
そう、マリナジは敗れた、そして見えたこと。
それは現段階の彼のボクシングではコットというトップレベルの相手にはまだ手が届かなかったということ、しかしまた、彼にはどんなに苦しい状況でも勝負を投げることのない強いハートがある、ということは少なくとも皆が認めた試合でもあった。
そして、この日を境に彼に対しての回りの評価は変わっていった。コットとの対戦で最後まで諦めなかったことで彼の将来を評価し、アメリカの大手ケーブルテレビ局HBOはマリナジの復帰戦をライブで放送した。そして彼は敗北から1年、再び世界のリングへ帰ってきた。
マリナジは最大の武器であるジャブに効果的なフックを交えることで自らのスタイルを貫き、大差の判定の末、完勝で前王者ラブモア・エンドゥを破った。最終回には脚を止め打ち合いさえ見せた。彼は自分のスタイルでも世界は穫れることもこの時、証明してみせたのだ。
彼が世界王者になったことをNYのメディア、ボクシング関係者、ジムの仲間達、彼を知る者、皆が喜びを感じたに違いない。強気な発言の裏には努力があったことを知っているからだ。マリナジがトレーニングしてきたジムで、トレーナー達は口々に言った、
「俺達はポーリー(マリナジ)がジムに来たときから彼のことを見てきた。才能があったからすぐにアマチュアで結果を出してプロでも勝ち続けていたのは確かだ。でも、その裏で彼がメインを張るようになったときでも、下の階級のチャンピオンや名もない4回戦や6回戦のボクサー達にスパーでやられてきたとき等もあったのも知っている。だから、それを思うと俺達は彼の勝利が嬉しくて仕方がないよ。」
私がマリナジに始めてあった時、彼はまだ何者になるかも分からないただのホープの一人にすぎなかった。また私がはじめてみたアメリカのプロボクシングの試合のメインもマリナジだった。あの時は私も彼に皆と同じ疑問を抱いていた、、、
あれから4年あまり、ポール・マリナジは今、世界王者となった。
「これ(世界タイトル)は長い人生の夢だったよ。」
試合後のインタビューでマリナジはそう語った。「長い人生」と言っても彼はまだ26歳である、彼はまさしくこれからのボクサーなのだ。今なら彼が他の団体王者やトップクラスのファイターと互角に渡り合うことを疑問に思うこともない。
ポーリー、君はあれから本当に強くなった。
ーー終わり
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